水中写真家 中村卓哉さん写真展『海と森がつなぐ命-辺野古-』大浦湾の海の写真編
『海と森がつなぐ命-辺野古-』
水中写真家 中村卓哉さんの写真展の記事2回目です。
前回の記事はこちら↓
「水中写真家 中村卓哉さんの写真展『海と森がつなぐ命 -辺野古-』のトークショーに行ってきたよ」
生態系豊かな辺野古の海は、やんばるの森で作り出された栄養たっぷりの水が海に注いでいるからこそ作り出されています。
今回の記事は、海の写真と中村さんのお話を紹介します。
アメリカ軍基地移設に伴って進む護岸工事(辺野古の海を埋め立てる工事)によって、これから先辺野古の海はどんな変化をしていくのでしょうか。
- 河口のマングローブ 淡水と海水が交じる砂泥地帯の命
- 河口からつながる海に現れるクマノミ城
- 湾の入り口から泳いで海に潜っていくことへのこだわり
- 見事なサンゴ礁が広がる透明度の高い海
- 自分が何に感動したのかハッキリわかる写真を撮る
- ジュゴンが見える丘には満点の星空
- 2018年5月 サンゴの一斉産卵
- 護岸工事が進む辺野古の海
- 辺野古の海 1度埋め立てで死んでしまったとしても見届ける
- おまけ 中村さんが岸から400メートル泳ぐ体力を維持する方法は?
河口のマングローブ 淡水と海水が交じる砂泥地帯の命
トークショーが始まる前に観て気になった写真が再び登場です。
マングローブはお花が咲いて、真ん中の細長い部分がタネになり水面に落ちます。
そのタネと新芽の写真がこちら。
水面に刺さったマングローブのタネから新しい芽がでます。水中と地上を半分ずつ写した写真。
なんだか可愛らしい写真ですよね。
このようなドームポートレンズをハウジング(カメラの防水ケース)の外側に取りつけることで、水中と地上の境目の写真を撮ることが出来ます。
マングローブの林の土は、粒子の細かい粘土質の土。
人が歩くと砂煙を巻き上げて一気に水が濁ります。
そんな場所でもカニやミナミトビハゼなどの小さな生き物の住処になっています。
河口からつながる海に現れるクマノミ城
沖縄なのに、少し水の透明度が低いと感じるかもしれません。
その理由は、川から流れてきたたくさんの栄養素を求めてプランクトンが集まっているからです。そしてプランクトンを目当てにたくさんの生き物が集まる。
この根にはイソギンチャクがびっしり。そしてそのイソギンチャクを住処にしているクマノミが楽園を作っています。
中村さん「干潟から近いモヤモヤして透明度が低い地帯があるからこそ、その先の深場にずば抜けた透明度の高い海が広がるんですね。サンゴが喜んで育つ場所です。」
湾の入り口から泳いで海に潜っていくことへのこだわり
ここでわたしがとても驚いたお話がありました。
中村さんが辺野古の海に潜る時、湾の入り口からボートに乗らず、400メートル以上自力で泳いで深場まで行くそうです。
これって相当すごいです。
例えば伊豆の雲見というダイビングポイントでは、ビーチから200~300メートルほどのエントリーポイント(ダイバーが入水する場所)までボートで行きます。
それだけ泳いだら、そのあと海中を楽しむ時間に必要なタンクの空気がなくなっちゃいます(笑)
だけど中村さんはビーチから泳ぐことにこだわる。
川から海へつながる地帯にも、たくさんの命が暮らしている。誰も気にも留めないような小さな生き物たちにもカメラを向けたい。
辺野古の海にはジュゴンが現れる。ジュゴンは絶滅危惧種に指定されている大型の海洋哺乳類です。人魚のモデルだとかそうでないとか。
右下の写真はジュゴンが食事をした後の様子。ブルドーザーで草刈りをしたかの様に、藻が直線上に食べられています。
こんな様子も、ボートで沖にすぐ出てしまったら見ることの出来ない光景です。
見事なサンゴ礁が広がる透明度の高い海
そしてギャラリーの写真は段々と足のつかない深場へ進んでいきます。
沖縄などのリゾートでダイビングをしたことのある人は、サンゴを見たことがあると思います。
でもこれだけのサンゴの量。辺野古のサンゴはとっても美しいですね!
こんなにモリモリの元気なサンゴ、見てみたいです。
そしてこの写真。岩場の暗がりにすむリュウキュウハタンポというお魚の群れです。
よーく見ると、みんながみんな自由な方向を向いています。
中村さん「暗がりに住んでいると、魚たちも天地がわからなくなっちゃうんですねぇ。」
「僕もこの写真を撮った時、天地よく分かってないです(笑) 」
どっちが水面方向なのか、地面なのか。よくわからなくなってしまう。おもしろい。
「海の中はね、天地とか関係なくて自由なんですよ。」
あー、わたしこの言葉好きだなぁ。
前後左右、天地さえも自由。みんな自由に生きてる。なんかステキじゃないですか?
自分が何に感動したのかハッキリわかる写真を撮る
この写真。とっても見事なサンゴですね。
中村さん「このサンゴはモノクロでも良いと思ったんですね。でも今回のギャラリーはカラーで統一しているのでカラー写真なのだけれども。」
「写真を撮りたい!と思った時、自分は被写体の何に感動したのかがハッキリわかるように撮るんです。このサンゴの場合は枝が見事。だから海を背景にして形がくっきり写るようにしています。」
なるほど確かに。
もしこのサンゴを、上から撮ったら。きっと岩肌が背景に入り込んでこんなにキレイな枝ってことが分からない写真になっちゃうと思いますね。
だからあえて逆光で煽るように撮る。
「形なのか、色なのか、光なのか。自分は何に感動したのかを考えてカメラを調整して撮る。」
このサンゴの写真を見たら、誰もが「形がすごい!」と思うでしょう。
写真を撮る上で大切なのは、そういうことなんですね。
ジュゴンが見える丘には満点の星空
都会にいたら見ることが出来ないもの。その1つが満点の星空です。
辺野古には「ジュゴンが見える丘」という場所があり、そこには空を遮る光もなく満点の星空が。
ステキ~~~~~~~!
小さい頃にどこかのキャンプ上で見た星空の記憶がありますが、大人になってからは見てないなぁ。
中村さん「シャッタースピードは15秒くらい。開放値は2くらいで撮ることが出来ます。」
この説明、カメラ初心者のわたしにはあまりピンときていないのですが、メモしておきました。いつかこんな星空も撮りたいな。
2018年5月 サンゴの一斉産卵
そしてこの写真。2018年5月29日。大潮の日。
中村さんがちょうどこの写真を撮っている最中、わたしもサンゴの産卵に関する記事を書いていました。
月が満ちる大潮の日。1年に1度だけのサンゴの産卵の日です。
いつか必ず見たいこの光景。硬い岩の様にも見えるサンゴたちが命を繋ぐ大切なシーンです。
この写真だけでも感動しちゃうのに、実際に目の前で見ることが出来たら…。
ダイビングしながら泣いちゃうかもしれないな。
中村さん「前年の2017年に、大部分のサンゴが白化(サンゴが死ぬこと)してしまいました。でもこうやって次の年、元気に新しい命を繋ごうとしていた。」
そして、そのサンゴの産卵を眺めるタコちゃん。
中村さん「サンゴの産卵シーンにはたくさんの生き物が集まるんですね。食べに来るんです。タコはサンゴの卵は食べないんだけれど、ぼ~っと眺めているみたいな姿がかわいいなぁって思って撮った写真です。」
わたしもかわいい!って思いましたこの写真。タコもキレイだな~って思って見てたのかな。かわいい。
護岸工事が進む辺野古の海
基地移設で進められる護岸工事。辺野古崎を区切るフロートが浮いている写真。
区切られたその先に立ち入ることは出来ません。
中村さん「中に入ることは出来ないけれど、入ることができる範囲で海の生き物たちの環境がどう変化していくのかを見続けていきます。」
辺野古の海 1度埋め立てで死んでしまったとしても見届ける
海の埋立工事が進めば、当然そこに住んでいた生き物たちは死んでしまうでしょう。
でも1度しんでしまったとしても、これから先どうなっていくのか、どう変化していくのかを見届けていかないといけないと中村さんは言っていました。
「鳥の鳴き声で目が覚めて、昼間はカニや魚を捕まえて宿で振る舞い、夜は静かで星空もたくさん、ジュゴンも来る場所。」
「基地のイメージがどうしても先行してしまう辺野古。みんな森と海を別々に考えてしまっている。だけれど、森と海の中間に住む私達人間が、これからどうするべきなのか。尊い思いで命を見つめていってほしいと思います。」
これが最後に中村さんが言っていた言葉です。
わたしがこのトークショーに参加した感想を少し綴ります。
護岸工事が進むことはもう変えられない。
だけれどそれに悲観しているだけじゃ何も変わらない。海の生き物たちは、懸命に新しい住処を探し、命を繋いでいく。
その力ってすごいなぁって思ったんです。
何かうまくいかないことがあって、わたしは足を止めちゃうけれど、それじゃ前に進まない。どうにもならない。
なんでもいいから何か、できることを始めてみる。歩くのを止めない。
環境が変化してゆくのなら、自分もそれに応じて変化してみる。
そんなことを感じたのでした(^^)
おまけ 中村さんが岸から400メートル泳ぐ体力を維持する方法は?
お話の途中でとても気になって仕方がないことがありました。
『中村さん、400メートル泳いで潜りに行くってどんな体力してるの??』
だって、ダイビング器材って多分20キロくらい(もっとかな?)あるんですよ。それを背負うわけです。
そしてさらに、あのカニみたいなカメラやその他の器材を両手に抱えているわけです。
トークショーとサイン会が終わった後に、中村さんに話しかけに行きました。
わたし「中村さん、岸から泳いでいくって、体力すごいですね。維持するために何かトレーニングしているのですか?」
中村さん「いや、特別何もしていないよ。1日目はやっぱりしんどいけど、2日目・3日目くらいになると慣れちゃう。疲れないよ。」
わたし「(まじか)」
中村さん「今何本くらい潜ってるの?」
わたし「まだ50本くらいです。初めて1年です。」
中村さん「なるほど。100本、200本潜るようになれば、何も疲れなくなるよ。慣れだね。」
なんてこった。そんなもんなのか!
慣れって(笑)
わたし筋トレしているから、たまのダイビングでも筋肉痛になったりしなくなりましたけれど。中村さん何もしてないってww
すごい。
わたしももっとたくさん潜ろう。
中村さん「今日は来てくれてありがとうございました。いい写真撮ってね!」
夏が終わって、秋の空になっていました。
今回の写真展の写真の他にも、辺野古の海とやんばるの森の写真が沢山載せられています。ステキな写真だらけで感動です。手にとって見てください。↓